Illustration by 竹藤狐
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 そこは、大樹の中だった。
 聖堂としても使われている大樹。その端の一部は、墓地として設けられていた。
 中には木々が植えられていて、木の枝には亡くなったヒトたちの名前が刻まれた札がかけられてある。
 そんな暗闇の中で、発光キノコを持って歩く、マリエットの姿があった。
「今日も、来たわよ……」
 マリエットはある木の前に立ち止まると、枝にかかっていた二つの札を手に添えた。さっと指でなぞって、手からするりと離して座り込む。
「新しく来た子がね、ここから出たいっていうのよ。彼らの事情は、分かってるんだけど」
 そう言って、マリエットは耳を傾ける。大樹の横穴を吹き抜ける風が、低くうなっていた。
「でもそれは、大人たちに任せるべきだと、私は思ってるのよ。彼らはまだ子どもなんだし、旅はとても危険だわ……」
 風だけが聞こえてくる。とっても静かで、暗い世界。発光するキノコの明かりは、何も答えない木の姿を映していた。
 木の前で、マリエットは頷く。
「そうよね。安全なこの場所に根づくのが、子どもたちにとって幸せなはずよね」
 マリエットは立ち上がって、小さくお辞儀をした。木も、風に揺れてお辞儀をし返したように見える。
「これで、いいのよね?」
 少し歩いてから、マリエットから振り返った。明かりから離れた木は、暗闇に包まれてもう見えない。
「もう同じ悲劇を、見たくないもの」
 呟くように言って、マリエットは墓地を出ていった。
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